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連載 「新しき医療を求めて」

連載 第三回 「医学生になる」

医学生になる

高校では理系クラスであるにもかかわらず、数学が大の苦手で模擬試験ではいつも数学で足を引っ張られていた。そこで私は、他の科目の取りこぼしを最小限にすることで数学の埋め合わせをすることにした。

そして、悪戦苦闘の結果、ようやくあこがれの東京女子医大に合格。合格はしたが、入学金と授業料が非常に高いため、私はもう一年頑張って国立大を受けなおします、と両親に伝え、両親も私がそう思うのなら、と納得しかけていた。ところが、祖母が「女の子は一年でも早くお医者さんになった方がいい。一年間無駄にすることはないよ」という一言と資金の助け舟を出してくれ、晴れて女子医大へ入学することができたのである。

入学後は、必死に勉強をした。素晴らしいドクターになりたいという思いはもちろんだったが、それにもまして私をここまで育て入学させてくれた、両親・祖母・伯父、そして今は亡き伯父・先祖への感謝と、高い授業料を払ってもらっていることへの申し訳なさが、授業を一言一句聞き漏らすまいとして励むエネルギーになっていた。そして2年後には、続いて入学してきた妹への範を示したいという気持ちも加わった。

一学年百人のうち、医師や実業家の子女が多い中、一般家庭に育った私のような学生が占める割合は少なかった。金銭感覚や社交性などのギャップをしばしば感じながらも、周りに流されないように、今の自分がするべきことは学業である、といましめていた。

これは、わき目もふらず必死に体を張って私と妹を育ててくれた母の姿が、自然と私の精神・行動に影響を与えてくれていたように思う。

また、私の学年はチュートリアル一期生でもあった。当時の女子医大の学長であられた吉岡守正先生が全国の医学部に先駆けて導入されたのである。チュートリアルとは、自学自習のことであり、欧米では一般的だが、日本では医学部の常識を覆す教育方法であった。

もちろん、受動的にきく講義もあるが、チュートリアルでは数人のグループに分かれ、チューターが一人付き、色々な課題や症例についての問題提起、勉強、ディスカッションを自分たちで行う。チューターはあくまでも必要に応じ軌道修正をする役目である。

導入された当初は、学内外から賛否両論巻き起こり、きっとこの学年の国家試験合格率は過去最低になるに違いないと言われ続けた。

それでも、吉岡先生は、ご自身の信念を貫きとおし、私たち学生を信じて下さっていたのだと思う。私は、受け身でただ講義をきくより、自主的に疑問をもち、調べ、話し合うことで多くのことを学べたと思う。

私はもともと、そう社交的でなく、生真面目なタイプであったが、大学では社交ダンス部に入部した。ダンスを通して、人前で踊ること、自己表現の楽しさを知り、勉強以外の時間はダンスの練習に明け暮れる毎日だった。しかしこのような日々も4年生までである。

5年生から6年生前半にかけては病院実習で、各科を順にまわり、実際に病棟の患者様を受け持ったり、回診や外来、手術を見学したりしながら学ぶのである。始めは問診もうまくできないどころか、患者様と話をすること自体、不安や恐怖感でドキドキしてしまうこともあった。

国家試験が近づくと、百人の同級生はそれぞれ個性豊かな学生ばかりであったが、なぜか皆、チュートリアル1期生として、見事に国家試験をクリアしようという連帯感が生まれていた。
そして、見事に皆が驚くほどの高い合格率をあげることができたのである。その後、全国の医学部は競ってチュートリアルシステムを導入し始めたという。

連載 「新しき医療を求めて」 ~Dr.エミーナの医療革命~

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