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連載 「新しき医療を求めて」

連載 第十回 「再びアメリカへ」

再びアメリカへ

帰国後3ヶ月目に入ったころ、ようやく心身ともに回復し再び私はシャーロッツビルへ戻った。帰国前にT教授に挨拶し、かけていただいた言葉は
「そんなに長いことこちらで何をしていたの?」
今度はその体験を活かして、以前のように休日まで働くことをやめ、友人と食事に出かけたり草ゴルフをしたりと、気分転換を上手にするようにした。研究の方も、再実験に再実験を重ね論文を一編仕上げることができた。
その一方で、今回の体験をもとに考察と探求を続け、私が長年感じてきた、対症療法主体の現代医療の実態に対する違和感や疑問が間違っていなかった、という確信を得ることができた。

それと同時に、病気を根治(根本から治す)ためには、個人個人の病気の本質的原因を明らかにし、それを除去あるいは改善して自己治癒力を高めること、さらには病気になる前に日頃から心身をケアし予防に努めることこそが必要不可欠であるという考えに至った。
そして今まで教育を受け病院で行ってきた医療をふり返り、愕然とする思いがした。

確かに現代医療は、分子・遺伝子レベルの研究、病気の診断技術や救急医療、外科手術の分野では著しい発展を遂げた。ところがその一方で、増え続ける膨大な医療費にも関わらずがんや膠原病、アレルギー疾患、糖尿病その他多くの慢性疾患は増加し続けているという矛盾を抱えている。
がんによる死亡数は約20年前に日本人の死因第一位になってから年々増えている。アメリカでも医療費、主要慢性疾患数が増え続けており、西洋医学以外の医学、セラピーの研究・普及が盛んに行われ始めている。
なぜ、このような矛盾が生じているのか。それは現代医療の世界における問題点に原因がある。

現代医療が抱える主な問題点

1. 対症療法により症状を抑え治ったような錯覚に陥る
2. 薬の副作用や毒性による障害や病気の難治化
3. 医師が専門の病気や臓器を重要視し、精神と肉体の一体性を考えて医療を行うことが少ないこと
4. 真の予防医療の知識と実践が乏しいこと

また保険医療制度は、一人当たりの診療時間を短くし、検査や薬の処方を多く行うほど高収入が得られるしくみになっていることがこれらの諸問題を助長している。
症状があって検査に異常のない人に対して、予防医療を行っても保険の適応にならない。病気になって初めて、食事、生活指導の費用が認められる。
このような状況の中、国民医療費は30兆円を超え、健康保険の赤字額は年々増加しており、このままではいずれ健康保険が破綻すると予測されている。
医療費削減のため、その場しのぎの制度改正が行われているが、より根本的な改革が必要と思われる。
もちろん、私は医療を行う上で、現代医学の知識や診断技術は必要であり、場合によっては対症療法が適切な場合もあると考えている。
しかし、これまでのような現代医学至上主義の医療が続く限り、病気を起こしている根本的原因は改善されず、病気に苦しむ人は増える一方であり、病院はいつまでも患者さんを通院させることができ、製薬会社も安泰という悪循環は断ち切れない。
本来の医療とは、生体に備わる自然治癒力を高め治癒に導くために、可能な限りのサポートをする存在であるはずが、現代医療は対症療法によって自然治癒力を低下させ、かえって病状を悪化させていることも少なくないのである。

これらの気付きを経て、病気を根本から治す医療、そして病気になる前の予防医療、それが私のライフワークであると決心した。今まで学んできたことも活かしながら、副作用なく自然治癒力を高める医療である。
4年前には、自分が医師として何を目指していけば良いのかわからず、夢も希望もなく不安定な気持ちであったが、こう決心してから目の前が明るくなり、自分の使命を見つけた喜びと責任を感じて、鳥肌がたつ思いがしたことを覚えている。
まさに、自らの病気体験が問題提起のきっかけとなり、チュートリアルを行ったような感覚もしている。

留学期間が終わる前に、私は一度日本へ帰国しT教授に面会した。医局へ戻った後のことを相談するためである。 私は、まず今回の経緯と自分が目指したい医療について話した。その後、通常業務の他にその分野の勉強、研究をさせてくださいとお願いするつもりだった。ところが、それを言う前に

「うちでは無理ね。他を探しなさい。」

その言葉に、私は非常にショックを受けた。そうしたいなら医局をやめなさい、ということである。
私は医局に所属しながら、新しい分野の医療を追究できればという願望があったが、医局にとっては既存の範囲内での研究・診療を行い、上からの指示に黙って従う人間が最も必要なのだった。私のようなことを考え行動する者は余計な存在なのである。
結局、留学が終わるまでにもう一度良く考えて返事をすることになった。
再び研究室に戻り、2編めの論文作成にとりかかった。
得られた結果を論文にまとめることはエネルギーのいることで、一度は投げ出しそうになった。しかし、同じ研究室に日本からきていたK先生に、

「いくら研究をがんばったとしても、結果を形にしない限りは誰にも認めてもらえないものだよ。僕も、気持ちがついてこないときは、将来子供が大きくなったときおやじはこんなことしていたのか、と思う日がくるだろうと自分にいいきかせている。今頑張れば、きっと将来、よかったと思える日がくる。」

と励まして頂いたうえに、論文の指導もして下さった。こうして、無事論文を仕上げることができたのである。
その後も新しいデータを得るため研究を続けていたが、滞在予定期間をあと3ヶ月ほど残していたころ、再び食欲低下、胃のもたれが始まった。私は、まさか、と思うと同時に、やはり、とも思った。
生活上は無理をしないように気を配ってはいたが、私は性格的にあまり器用な方ではなかったため、自分が目指す医療と、今自分が行っている研究生活との間で気持ちのバランスをうまくとれず、精神的分離感、帰国後の医局での身の処し方に対する不安、恐怖、それらがないまぜになって精神的ストレスが大きくなっていたように思う。

特に、帰国後は今の医局にはいられないと思うと、ショックだったし、学生時代からお世話になっていた上司の先生に申し訳ない気持ちもあった。

そのような時、あるアメリカ人女性との出会いが私の直感を呼び起こしてくれた。
「今のあなたには人を癒そうとする前に、自分を癒すことが先でしょう。自分の感性を信じて生きることが大切。」
という、まるで私の状態を映し出す鏡のようなアドバイスをもらった。
実際、胃の症状がまた始まり、体力も気力もかなり落ち込んでいて、あと3ヶ月もアメリカにいることに不安と負担を感じていたのである。
頭で考えれば気になることはいろいろあったが、私の直感で、ここでの学びは充分、日本へ帰りたいと心底思い、一ヶ月後に日本へ帰ることを決めた。
引き上げにあたっても、案外大変で、まだ体力が残っているうちに動いてよかった。家具や車の処分、研究の整理など最後の頃は気力を振り絞って準備をしていたように思う。

連載 「新しき医療を求めて」 ~Dr.エミーナの医療革命~

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